LOVE JUNK

Vol.11 おっさんだけどパリジェンヌ

ずいぶん長らくお待たせしました。公演前、稽古に励む日々が続いており、わたしの飲酒量も確実に増えております。

犬の散歩をしているとやたら、いろいろな人に声をかけられる。たいていが中年の方々だが「これ、なんて種類?」「雑種ですわ」「ああそうか、10歳くらいか?」「そのくらいですね」とか、「あら、ジョン君?」「いや、違いますね、ウチのメスだし…」とかね。公園を通ると父子が逆上がりの練習をしている。なんだかその光景が芝居がかって見えて、(きっとこの父親は息子とのキャッチボールを夢見ているに違いない…。)なんて思ったりする。別の公園では血統書付き、学校出(?)の立派なワンちゃんを連れた方々が集まって、犬談義に花を咲かせている。なんとなーくその輪を避けてしまうわたしは、子供の公園デビューに頭を悩ますタイプなのかもしれない。

そもそもこの犬の散歩、捨てられていた仔犬を拾ってきた父の仕事だったのだが、父には現在「散歩禁止令」を発令している。どういう経緯で「散歩禁止令」が出されたかと言うと、父は散歩のとき、つなを着けないで散歩するからである。20年程前、一度だけ仕事でパリに行き、そこで見た「放し飼い」に憧れているようなのだ。しかし東京ではそうはいかない。たいていの地域には「犬は繋ぐ」という条例がある。犬嫌いの人もいるし、マナーの悪い飼い主もいるだろう、ムツゴロウ王国なら問題ないだろうが、これだけ人口密度が高くて狭い東京では仕方のないことである。

当然近所の小うるさいおっちゃん(おばちゃん?)に目をつけられ、何度も小言を言われているようなのだが、父はお構いなし。今日も相変わらずパリジェンヌ気分でお散歩へ行く。アタマにきたお小言ご近所さんが通報したのだろう、保健所から何度も注意をいただいた。それでも繋がない父。ほとんど子供のケンカ状態だ。可哀想に板ばさみとなった保健所所員さんは、ヘコヘコしながら我が家を訪問すること数回。ついに家族から「散歩禁止令」が出されたというわけだ。

で、わたしは散歩しながら想像してみる。お小言おっちゃんが保健所から注意を受けた父の消沈した顔を期待して、家の窓からのぞいているのではないかと。するとそこに犬を連れたわたしが通りかかる。「あ、あの犬だ!」とお小言おっちゃん、家を飛び出す。しかしよく見てみると、犬を連れているのはいつもの憎き初老のおっさんじゃなく、うら若き娘さんじゃあないか。小言おっちゃんすかさず小娘に近づき「いつものおっさんはどうした? 最近見かけないけど、今日はねぇちゃんが散歩かい?」とさりげなく聞いてみる。天敵っていうのはいたら腹立たしいけど、いなきゃいないで寂しい、なにかと気になる存在なのだ。そこでわたしが「父は亡くなりました」なんて言っちゃったらどうなっちゃうかしら、うしし。

ライバルを失ったおっちゃんはすっかりショゲて、癒しに犬なんか飼い始めちゃったりして。そのうえ、実はわたしが寝ているうちにこっそり(本人はこっそりのつもりだがバレバレなのだ)散歩している父を見かけ、すっかり怨念だと思い込んだお小言おっちゃんは、「俺が悪かったよ〜、成仏してくれよ〜」なんてお経を唱えたりして。

なんて想像してニヤニヤしながら散歩している。公園デビューは、相当難しそうだ。
ラッシュアワー

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