LOVE JUNK

Vol.19 記憶のサスペンス

テレビである実験をやっていた。実験者Aが、ひとりの被験者に道を尋ねる。そこに実験者BとCが大きな板を運びながらやってくる。そして、道案内をしている被験者とそれを聞いている実験者Aの間を遮る。板が通り過ぎ、何事もなかったかのように道案内を再開する被験者。実は、板が通り過ぎるときに実験者AとBが入れ替わっていたのだが、被験者はまったくそれに気がつかない。

また、こんな実験もある。15、6人の被験者をひとつの部屋に集める。実はその中に実験者が数人混ざっていて、そのうちのひとりが他人の荷物を盗って逃げ去る。一瞬の出来事に唖然とする被験者たち。目撃者は多数、すぐ犯人は捕まるだろうとだれもが思う。 目撃者のひとりが、「犯人はひげを生やしていた」と言う。すると、他の人も「そうだった、ひげを生やしていた」と言いはじめる。また別の人が、「メガネをかけていた」と言う。すると、他の人たちも「うん、そうだった。絶対にメガネをかけていた」と言う。ところが実際の犯人は、ひげもメガネもないのだ。

「そんなわけないわよ」、「自分はそんなヘマはしないね」と高をくくることなかれ。人間の記憶ってかなりあいまいでそのうえ変容するものらしいですよ。

ところでわたしは、こどものころの記憶にちょっと自信がある。さすがに子宮の中の記憶はないけれど、2、3歳のころの記憶、そのときの状況・景色・感情までもかなり鮮明に覚えている。最近、昨夜食べたものすら忘れがちなのは記憶力が悪いわけじゃなくて、こどものころの記憶で記憶をためておく部分が飽和状態になってしまったせいなので、勘違いなさらないようにお願いします〜。

さて、こどものころの記憶でひとつ不思議なものがある。4月から幼稚園というころだから3、4歳だろうか? 母のこぐ自転車のうしろに乗せられて幼稚園の体験入園に行った記憶だ。

「かわいい幼稚園なんだよ」という母の声。しかし着いたところは、あまりかわいくないおばさん先生(←失礼)と、わたしよりだいぶ年上と思われるお姉さんたちが15人ほどいて、なんとなく薄暗い古い建物だった。ふたりでひとつのオルガン(のようなもの)を使っていて、木目の模様なんかも覚えているし、おばさん先生が「はい、じゃあフタを開けましょう〜」と言ったのも鮮明に覚えてる。で、どうなったか? 今でも、自分より大きな人たちに囲まれると怖くて仕方がないのに、3歳児のわたしがこの状況に耐えられるわけがなかった。恐怖におののき、半べそをかいてギブアップしたのだ。大人になってすっかり成長して、身長が151センチにもなったからよかったものの、もしわたしの身長が標準より小さかったらと想像すると…、まったく背筋が凍ります。

結局、家から徒歩30秒の幼稚園という安易な道に落ち着いたのだが、あのとき連れて行かれた場所が何だったのか、ウン十年経った先日、母に聞いてみた。

わたし 「体験入園に行ったところってどこの幼稚園? どこかの音楽教室?」
母 親 「は?」
わたし 「ほら、オルガンがあってさ、『かわいい幼稚園なんだよ』って言って自転車で行ったじゃん」
母 親 「へ?」
わたし 「・・・」

えー! なにこの記憶、いったいどこから沸いてきたの〜? まったくもって疑問。夢か幻かはたまた記憶違いか? 結局、この件はそのままお蔵入りしてしまった。だけどだけど、今でも信じてます。「母親は自分の選択ミスを悔やんで、この事実を記憶から消し去ったに違いない!」とね。

もうひとつ、最近体験した、記憶にまつわる不思議なこと。

近頃、ブログなどが流行っているおかげで、わたしにもネット上でやりとりをする「ネット友だち」ができた。とは言え、ネットはひとつの出会いのきっかけで、そこから先は実態のある交友関係でありたいと思っているので、ネット友だちのほとんどの方は実際にお会いしている。手始めは、所謂「オフ会」というやつ。この前の公演を観てくださった方もいて、なんともうれしい。

その中の一人、Sさんとは、あるミュージシャンをきっかけに、やりとりをするようになった。半年ほどのやりとりで年齢が同じだということがわかり、家もさほど遠くないようで、話の通じる部分が多かった。とは言っても広い東京、そういう人がいても何の疑問もない。

そのSさんが主宰の「オフ会」が11月末に開かれた。初めて会うSさんに心をときめかせていざ集合場所へ。ところが待ち合わせ場所にいたSさんにわたしは呆然とした。ナント! 高校の同級生だったのだ。

とは言え、彼女とは同じクラスになったこともなければ、一緒に授業を受けたこともなく、最初、彼女がだれなのかわからなかった。絶対にどこかで見た顔だとは思いながら挨拶をしたらSさんが、「高校、一緒だよね」と。それでも「ああ、そうだ、高校が一緒だった!」というくらいしか思い出せない。いくら記憶をたどっても、彼女の名前すら出てこない。仕方なく「ごめんなさい、高校のことあまり覚えてなくて」と。

「ほら、やっぱり記憶力がないねー」と思ったでしょう〜。早まることなかれ、これから不思議なことが起きるのです。

参加メンバーがそろい居酒屋に移動する間も、想定外のできごとにわたしの頭は同時に色んなことを考えようとして爆発寸前。お店についてお酒も入り少しずつ落ち着きを取り戻し、話をしているうちにいろんなことが判明してきた。

ネット上でわたしは、本名も顔写真も載せているので、それを見ていた彼女は当然、「あれ?」と思っていたらしい。そして先日の公演を観に来て、「間違いない」と確信したそうである。上演後、バタバタしているわたしを見て声をかけずに帰ってしまったと彼女は話してくれた。それでもわたしの記憶はあいまいなまま、2次会へ。残った5人で談話をしているとSさんが、「わたし高校のとき『キュウちゃん』って呼ばれててね〜」という話をはじめた。

「キュウちゃん……、そうだ、キュウちゃんだ! 思い出したよ!」

彼女の高校時代のあだ名を聞いたとたん、記憶がどんどん蘇りはじめたからビックリである。彼女の周りはいつも楽しい雰囲気で包まれていたことや、ときどき貧血で青白い顔で横たわっていたこと、通学は自転車だったこと等々、それこそ湯水のごとく。

いくら考えても出てこなかった記憶が、ひとつのキーワードをきっかけに蘇るなんて、火曜サスペンスに出てきそうな話じゃない? 記憶を失なったヒロインがある言葉をきっかけに頭の中に残酷な映像が見えはじめる(もちろんそのときは頭痛が伴う)。やがて恋人の愛の力で、ヒロインの口から少しずつ事件の真相が明らかになっていく…。
「真犯人は、この中にいます!」チャチャチャ〜♪
-コマーシャル-

ってな感じでね。

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