2004年5月 母の日のこと

この世に生まれてきて一番最初に聞いたものはなに?
この世に生まれてきて一番最初に見たものはなに?
この世に生まれてきて一番最初にかいだにおいはなに?
この世に生まれてきて一番うれしかったことはなに?

母の日に、どうしてもどうしても買ってあげたくて、何度も何度もしつこく聞きました。
あなたは、やっと、考えながら正直に答えてくれました。申し訳なさそうに。とってもうれしそうに。
近所のスーパーに2人で買いに行く。
2階の化粧品売り場で、「このマスカラがほしかったの」と、気をつかいながら。申し訳なさそうに。とってもうれしそうに。言う。

冬のさむい夜、「すぐに、ふとんにもぐるんだから」と言って、冷たくなったぼくの足を、自分のふとももや足に、はさんだり、こすったりしながら暖めてくれる。
朝、目をさますと、おかあさんがとなりにいる。安心感。おかあさんの顔がとなりにある。朝の唾液のにおいを嗅ぐ。

ぼくがでかける、家の前の道を、右にいっても、左にいっても、ぼくの姿がみえなくなるまでずーとみている。ふりかえる。やっつぱりみている。何度ふりかえっても、やっぱりぼくをみている。
”おかあさん、目が悪いのに、こんなに離れてしまっているのに、ぼくのことがみえますか。”
ぼくのことを、やさしく、心配そうに、いつまでも見つめているおかあさんを、ぼくは確かに、目撃していました。

弁当箱の包みの中に、母の手紙が毎日入っている。
高校生になったぼくは、まわりの目が気になり読まずに捨てている。
ある日、広告の裏側に、えんぴつで走り書きされた母の手紙を読む。
「他人に迷惑だけはかけないようにしなさい」
大音量で母の声が鳴り響いた。

死ぬことは本当に怖い。
だけど、大好きな母に会えるのならば、また、いっしょに暮らせるならば
ぼくも、そっちへ行ってみたい。
そう考えると、死ぬことも、けっこう楽しいことかもしれない。


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