2004年7月 十代のエロスと夏の終わり

校舎の窓硝子越しに、いくつもの小さな花たちが校庭にいるぼくを見つめている。
その中から小さな小さなかわいい向日葵を見つける。1秒とかからない。
ぼくをずーうっと見ていた。きみはずーうっと、見ていた。
<ずーうっと見ていたね、ぼくがいなくなるまで>

ぼくの体育の授業が外であるとき、きみの授業は開店休業。先生の声なんて耳に入るわけない。
ある時きみは、
<今日実験の時、先輩のこと見てたでしょ、そうしたら藤掛先生が、「佐藤、外ばっかり見ていて、そんなにいい男いるのか。」っていうから、いるいるいるんですよって言ったら、「そうか、だれだ。」って言うから困っちゃったよ、先輩の名前いえないし。
一人で顔赤くなっちゃった。>って、うれしそうに、恥ずかしそうに、照れくさそうに満面の笑みをうかべて、きみがいう。

<よし坊大好きだよ。>
日焼けした顔にかすかなソバカス。
茶色の髪と茶色の瞳。
耳の横の産毛に白い歯。
向日葵のように元気で明るい笑顔。そして、笑顔のまま頭をたれる。たれた先で君はうれしそう。確かにうれしそう。

放課後。
2人にとって神様がくれた最大のチャンスがおとずれる。
部活が終わり、ほっぺたを赤くしたきみがぼくの教室で、ぼくをまつ。
西に黒板、南に窓硝子。窓硝子の向こうには、青酸色の空とわたあめの雲。校庭では練習が続いている。
ぼくは、笑顔で後ろのドアから教室に入る。きみに気づかれないように。シャムネコのように。

振り向いたきみは、いつもの笑顔で僕を迎えてくれる。どこまでも素直に、まっすぐにぼくを信じて。

君までの距離、おおよそ2メートル。迷うことなく蜜を吸うみつばちのように。この花びらの花粉に身体中を黄色く染めに、本能のおもむくまま、きみにむかって歩いている。

やわらかい汗のにおい、あまい髪の毛のにおいにつつまれて、きみの脇腹に右手をまわす。
ぼくはきみを抱き上げて、自分の机に座らせる。
宝石のような汗が、後ろの髪を濡らしている。
汗の滴がうなじにつたわり、もう君しか見えない。
静かに、はやく、流れるように、僕の身体は踊り出す。きみの肩に左手が触れる。
静かに、はやく、確かめるように、きみの頬をぼくの右手の人差し指と中指の内側がかすかになでる。左手はゆっくりと髪の毛をなぶる。

机の脚がかすかにふるえ、黒板のみどりが銀色のひかりを放つ。
体操服と上履きのにおい。高温、多湿の教室に2人のゆげがたちのぼる。

きみのにおいがする。すべてのにおいがする。ぼくのフレームにはきみしか映っていない。
ぼくはロックした。
きみをロックした。
目の前の空気が逃げていく。酸素がうすくなり、二酸化炭素で空気の温度が上昇し、あつい体温が産毛と毛穴から沸き立ち、盲目のぼくをみちびいてくれる。
息を止め、かたく、やわらかな唇を確かめ、感じる。感じた。
あたたかく、かわいていて、ゆっくりと濡れていく、きみという純水の中に、ぼくという硫酸をゆっくりと流し込こみ螺旋状におちていく。
ぼくはきみを吸いこむさかなになって、空気と水をすいつくす。ゆっくりと、そしてはやく、流れのなかで。しずかに、あつく、飽和状態。


しずまりかえった教室。薄暗い廊下。季節をやめた灰色の校舎。
その中できみは、
<もうせんぱいいきなりなんだもん>
うつむいたまま、恥ずかしそうに、照れ笑いをうかべながら、恥ずかしそうに。恥ずかしそうに。


いっしょに帰ったことがない。恥ずかしいから。きらわれるから。

テニス部の女の子にホースで水をかけるのが大好きでした。<みんなにひんしゅくだよ>と言われてもやめられませんでした。

オッパイ、おしり、ふともも、開襟シャツにブラジャーも見れない、かなしい日々がはじまる。

ぼくがおごってあげたジュースを、大事そうにうれしそうにもちながら、はじめて2人で歩いた放課後。

そのビンを家にもちかえり、キラキラするなにかを入れて、部屋のテーブルにかざっていたきみ。きみの部屋にはじめて行ったとき、それを見つけて胸があつくなりました。はずかしそうに、かくそうとして。

たしかにいた   2人。   放課後。  学校。  やりたい。    せんずり。   イカくさい教室。   酒。
煙草。   喧嘩。   バイク。   夜遊び。   女。   女。   ONNA。


十代のエロスと夏の終わり。


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